『Gibbeuse Descendante(十七夜)』
 
君が旅立ってから 何度あの月が姿を変えただろう
 
思えば私が病魔に蝕まれてからというもの
陽だまりはあからさまに私達を避けていった
特に君に関して記憶している事は
絶えず溢れ出てくる涙と飲み込みきれない悲しみ
 
もう何年も前の事だ
この国の王族お抱えの騎士団が
美しい一輪の薔薇を携えて帰国した
 
『銀月の薔薇』
蒼銀の月明かりの加護を受け
この世のありとあらゆる願望を
手にしたものに与えるという軌跡の花
 
薔薇を手にした一行の後を
無数の民衆が付いて行く
その最前列には懇願する老婆の姿があった
 
何でも病弱な幼い孫を
薔薇の力で太陽の下で遊べる様な
健康な身体にしてやりたいそうだ
 
老婆の話を黙って聞いていた兵士の一人が
突然その老婆の身体を切り裂いた
「この薔薇は女王に謙譲する物だ」
声高らかに兵士は叫んだ
 
その後一行は何事も無かった様に城を目指した
民衆は後ろを付いて行く
薔薇の花弁の一枚でも手にしようと
老婆の遺体を踏みしだきながら
 
私は酷く落胆した
誰一人として老婆の遺体に哀れみをかけない
それどころか元から老婆など居なかったかの様に
只ひたすらに薔薇の後を追い続ける事に
 
そしてその中に君が居た事に…
 
程なくして君は薔薇を探す旅に出た
恐らく私の病気を治す為だろう
しかし私はそんな事は望んではいない
そこまで浅ましくはなれない
 
あの光景を見た瞬間から
私の生への興味
この世に対する執着心は消え去ってしまった

もし君が薔薇を手にして帰って来たら
願う事は只一つ
 
「私と君が永久(とわ)に離れぬ様に 二人の身体を貫いてくれ」
 
あぁ
私がこの願いを抱いてから
何度あの月が姿を変えただろう…



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